大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(う)1714号 判決

被告人 頼進栄

〔抄 録〕

所論は、西暦一九五一年(昭和二十六年)九月八日にアメリカ合衆国のサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約(以下サンフランシスコ条約という。)で日本国は台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利・権原及び請求権を放棄しているが、同条約にはそれらの地域の帰属について何等の規定も設けておらず、またその後に締結せられた日本国と中華民国との間の平和条約(以下日華条約という。)においてもその帰属について何等の決定を見なかつたので、台湾人は、その帰属の決定するまで準日本人であつて外国人として取り扱われるべきではない。そしてまた被告人は日本の国籍を離脱する手続をしたこともないから、被告人に対し出入国管理令第三条、第七十条第一項を適用した原判決には法律の解釈を誤り法令の適用を誤つた違法があるというのである。

よつて按ずるに、サン・フランシスコ条約第二条(b)において日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利・権原及び請求権を放棄しているので、該平和条約の発効した昭和二十七年四月二十八日以降日本は台湾及び澎湖島に対する統治権を失い、これらの地域は日本の領土から分離せられるに至つたものであるが、所論において指摘されているようにサン・フランシスコ条約にはこれらの地域の帰属については何等の規定も設けられていないため、いわゆる台湾在籍民の国籍の得喪については法的に疑義の生ずる余地なしとしないのである。しかしながら、日本国と台湾及び澎湖諸島を現実に支配している中華民国との間において昭和二十七年四月二十八日台北で署名せられた日華条約によると、日本国がサン・フランシスコ条約において台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利・権原及び請求権を放棄したことが承認せられる(第二条)とともに一九四一年十二月九日前に日本国と中国との間で締結せられたすべての条約、協約及び協定は戦争の結果として無効となつたことが承認せられ(第四条)、かつ同条約の適用について、中華民国の国民には、台湾及び澎湖諸島のすべての住民及び以前にそこの住民であつた者並びにそれらの子孫で台湾及び澎湖諸島において中華民国が現に施行し、又は今後施行する法令によつて中国の国籍を有するものを含むものとみなす(第十条)ものとせられているゆえ、日本国と中華民国との関係においては、台湾及び澎湖諸島の帰属は決定し、台湾人の国籍についても一応の取極めが成立するに至つたことは明らかである。しからばサン・フランシスコ条約により直ちに日本の国籍を喪失するに至つたか否かの論議は暫くこれを措き、少くとも日華条約の発効した昭和二十七年八月五日以降は同条約の定めるところに従い台湾及び澎湖諸島は中国に帰属し、台湾人で中華民国の法令により中国の国籍を有する者は当然に日本の国籍を失い、中華民国の国民としての取扱を受けるに至るものといわなければならない。

そこでこれを本件にみるに、原判決の挙示する証拠によると、被告人は昭和七年十二月二十四日台湾台北市延平北路三段四十四号に本籍を有する頼得勝の長男として右本籍地において生れ、その後昭和三十一年六月頃香港に密出国するまで引続き台湾に居住していたものであることが明らかなところ、当審公判廷における鑑定人横山実の供述によると、中華民国においては在外台僑国籍処理弁法の規定により、台湾に居住する台湾人につき民国三十四年(西暦一九四五年―昭和二十年)十月二十五日以降中華民国の国籍を恢復せしめていることが知られるので、台湾に居住する台湾人である被告人は、該法律により中国の国籍を取得したことになるので、日華条約の適用を受け、日本の国籍を喪失し、中国の国籍を有する中華民国の国民として取り扱われなければならないこと勿論である。

しからば被告人は出入国管理令にいわゆる外国人に該当すること明らかであるから、原判決が、被告人を外国人と認め、判示事実につき出入国管理令第三条第七十条第一項を適用したのは、その外国人と認めた理由につき原判決の説示するところは当審の理由とするところと異なるのではあるが、その結論においては結局同一に帰するからそこに何等法令適用の誤はない。それゆえ論旨は理由がない。

(岩田 八田 司波)

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